熱処理できない鋼はオーステナイト系ステンレス鋼で ある。この種の鋼は、クロム含有量が高く、 炭素含有量が低いという特徴があり、耐食性に優れ ているが、マルテンサイトの形成により硬度と 強度を向上させる従来の熱処理プロセスには適し ていない。
304や316のようなオーステナイト系ステンレ ス鋼は、ニッケルおよび/またはマンガン含有 量が高いため、室温でもオーステナイト相を高 い割合で含む。このオーステナイト組織は安定し ており、他の鋼種の熱処理工程で一般的な冷 却時のマルテンサイト変態は起こらない。マルテンサイトの形成は、熱処理によって鋼の硬度と強度を高める上で極めて重要である。
オーステナイト系ステンレ ス鋼の場合、硬度と強度を高めるために熱処 理を試みても、マルテンサイトへの所望の変態は起 こらない。その代わり、これらの鋼はオーステナイト 構造を維持し、より軟らかく延性が高い。そのため、オーステナイト系ステンレ ス鋼の機械的特性を向上させるには、従来の 熱処理方法は有効ではない。
しかし、オーステナイト系ステンレ ス鋼は、ひずみ硬化によって強度を向上させ る冷間加工など、他の種類の処理を受けるこ とができる。この処理では、低温で鋼を変形させ、結晶構 造に転位を生じさせ、熱処理を必要とせずに 強度を向上させる。
要約すると、オーステナイト系ステンレス鋼 はマルテンサイトに変態しないため、硬度や強 度を高めるために従来の意味での熱処理はでき ない。その代わり、オーステナイト組織は維持され、本質的により軟らかく、耐食性に優れている。機械的特性を向上させるには、冷間加工のような他の方法が用いられる。
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