赤外分光法(IR)では、臭化カリウム(KBr)が主にサンプルマトリックスとして使用されます。なぜなら、中赤外放射に対して透明だからです。多くの有機材料と異なり、KBrは4000から400 cm⁻¹の領域に光を吸収する分子振動を持っていません。この特性により、得られたスペクトルはマトリックス材料自体の吸収帯ではなく、サンプルの吸収帯のみを示すことが保証されます。
IR分光法で固体サンプルを分析する際の中心的な課題は、光を散乱させずにサンプルを通過させる方法を見つけることです。KBrは「見えない窓」として機能し、赤外光がサンプル固有の分子結合のみと相互作用できるようにします。
IRに対して「見えない」マトリックスの原理
固体サンプルが困難な理由
固体材料をそのままの粉末状にすると、赤外光を激しく散乱させるため、クリーンで解釈可能なスペクトルを得ることができません。これを克服するためには、固体サンプルをIR光に対して透明なマトリックス中に均一に分散させる必要があります。
マトリックス材料の役割
KBrなどのマトリックス材料は、微粉砕されたサンプル粒子を固定された非散乱媒体中に保持します。目標は、単一の半透明な物体のように振る舞い、分析のために光を通過させる均質な混合物を作成することです。
KBrがIRに対して「見えない」理由
KBrは単純なイオン性塩です。K⁺-Br⁻イオン結合の振動は非常に低い周波数で発生し、化学者が構造分析に使用する中赤外領域のカットオフである400 cm⁻¹をはるかに下回ります。この分析ウィンドウに振動がないため、IR光を吸収せず、クリーンなベースラインを提供します。
理想的なマトリックスの主要な特性
IR透明性に加えて、KBrには他の重要な特性があります。それは、細かく粉砕できる柔らかい結晶性塩であることです。高圧下では塑性になり流れ、サンプルを所定の位置に固定する固体で透明なディスクまたはペレットを形成します。

KBrペレット法 対 ヌジョールマル法:重要な区別
ご質問では「マッティング剤」という言葉が使われていますが、固体サンプリングの主要な2つの方法を区別することが重要です。KBrはマル(mull)ではなく、ペレットに使用されます。
KBrペレット法
この技術では、少量の固体サンプルを、より大量の乾燥した分光グレードのKBr粉末と密接に混合・粉砕します。この混合物をダイに入れ、油圧プレスで圧縮して薄く透明なペレットを形成します。
ヌジョールマル法
マルは、固体サンプルをヌジョールと呼ばれる少量の鉱油で粉砕することによって調製されます。これにより濃いペーストが作成され、分析のために2枚の塩板(しばしばNaClまたはKBr製)の間に広げられます。ヌジョールは光の散乱を抑える役割を果たしますが、それ自体がスペクトルピークを導入します。
トレードオフと一般的な落とし穴の理解
サンプル調製方法の選択には、その固有の限界を理解することが伴います。どの技術も完璧ではなく、トレードオフを認識することが正確な解釈の鍵となります。
ヌジョールの問題:C-Hバンド
ヌジョールは炭化水素油です。その結果、C-H伸縮振動(2850~3000 cm⁻¹)領域と変角振動(1375~1465 cm⁻¹)領域で非常に強い吸収帯を生成します。サンプルがこれらの領域に重要な官能基を持っている場合、ヌジョールマルはそれらを完全に覆い隠してしまいます。
KBrの課題:吸収された水
KBrは吸湿性があり、大気中の湿気を容易に吸収します。使用するKBrが完全に乾燥していない場合、約3400 cm⁻¹付近にブロードで強いO-H吸収帯と、約1640 cm⁻¹付近に弱いH-O-H変角振動帯が現れます。これは、サンプル中のN-HまたはO-H基の分析を妨害する可能性があります。
ペレットの品質の問題
良質なKBrペレットの作成には技術が必要です。サンプルが十分に細かく粉砕されていないか、均一に分散されていない場合、ペレットは曇って見え、光を散乱させ、貧弱で傾斜したベースラインにつながります。不十分な圧力も、崩れやすいペレットにつながる可能性があります。
サンプルに最適な選択をする
技術の選択は、分析目標とサンプルの化学的性質に直接依存します。
- 最もクリーンで完全なスペクトルの取得が主な焦点である場合: KBrペレット法が優れています。KBrが乾燥していれば、中赤外領域全体にわたってクリーンな背景を提供します。
- 迅速な定性分析が主な焦点である場合: ヌジョールマル法は、C-H領域を無視できる限り、サンプルのフィンガープリントを素早く確認するための迅速かつ簡単な技術です。
- サンプルのC-H伸縮領域の分析が主な焦点である場合: ヌジョール自体のスペクトルが関連するピークを完全にマスクしてしまうため、KBrペレットが最良の選択です。
結局のところ、適切なサンプル調製方法を選択することは、材料の真の化学構造を明らかにするための最初のステップです。
要約表:
| 特性 | IR分光法において重要な理由 |
|---|---|
| IR透明性 | 中赤外領域(4000~400 cm⁻¹)に吸収帯がなく、クリーンなベースラインを提供する。 |
| ペレット形成 | 圧力下で塑性になり、光の散乱を最小限に抑える固体で透明なディスクを形成する。 |
| 主な制限 | 吸湿性があり、完全に乾燥していない場合、水分のバンド(約3400 cm⁻¹、約1640 cm⁻¹)を導入する可能性がある。 |
| ヌジョールマル法との比較 | 鉱油由来の強いC-Hバンドを回避し、炭化水素領域の分析において優れている。 |
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